ローラビーチ (混声合唱組曲「ティオの夜の旅」より)
木下牧子

人の目が見ていなくても
風景はあるものだろうか

貝の螺旋
月蝕ごとに
珊瑚が育つ
魚の側線
暴風の暗夜
水 珊瑚を砕き
砕けて砂
白く 淡く
積る千年
風のあとがつき
また風に消され
波がひたす
時が満たす
ゆっくりと日時計
潮の暦日
ゆれている
ぬるい浅い水
誰も憶えていない
誰も気付かなかった
その一日
どの一日
誰も計らない時間
太陽が沈みかけ
水がまた染まる
誰も見ていない
光が勝手に
あふれているだけ
一日

人の耳が聞かなくても
風は椰子の葉を鳴らす