先日、元SMAPで俳優の草彅剛(46)が第44回日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を「ミッドナイトスワン」で受賞した。今回、日本アカデミー賞で最も注目を集めたのはまさに同賞を誰が取るかだった。“前哨戦”とされる2月開催の第63回ブルーリボン賞でも主演男優賞を受賞していた草彅。このとき、日本アカデミー賞同様に草彅と共にノミネートされていたのが、嵐の二宮和也(37)だった。
近年の流れでいえば、日本アカデミー賞ではジャニーズ事務所所属の二宮が“忖度”されて最優秀主演男優賞を取るのではないかという声もあった。17年に同事務所を退所して以来、長らくTV出演から“干される”形になっていた草彅。同賞受賞でのスピーチで彼が「まじっすか」と思わず口にしたのも、地上波で授賞式が放送されることもあり、よほどあり得ないと覚悟していたのだろう。
ただ、所属事務所うんぬんや、最優秀賞を巡ってライバル扱いする外野の声とは裏腹に、発表前に行われたノミネート5人の優秀主演男優賞受賞者のインタビューでは、話の流れの中で草彅がごく自然に二宮に向かって「ニノちゃん」と愛称で呼んだ。これを受け、Twitter上のファンは歓喜し、「#草彅剛」だけでなく「#ニノちゃん」もトレンド入り。二宮はかねてよりSMAPを尊敬しており、バラエティー番組で草彅のことを「つよぽん兄さん」と呼んでいたことも改めて話題になった。
草彅の受賞時のスピーチ中、二宮が泣いているとの指摘もネット上に多くあがった。うがった見方をする視聴者は二宮の「悔し涙」だ、などと揶揄したが全くの間違いだろう。草彅の最優秀主演男優賞受賞がアナウンスされた際、二宮は「おぉ~!」と嬉しそうに口元を緩ませ、笑顔で拍手を送っていた。
二宮が特に目を赤らめたのは草彅がスピーチで周囲の人々への感謝を表していた時だ。「今まで皆さんと仕事をさせてもらえたこととか、NAKAMA(草彅が所属する「新しい地図」のファン)の皆さんに応援していただいていることとか、慎吾ちゃんとか五郎さんとか、近い人に支えられてきょうこの舞台に立てたんだなと思って嬉しいです」と語った草彅。
じっと聞き入っていた二宮も、草彅がSMAP解散を経験したように、円満ではあるが嵐およびリーダーの大野智(40)が活動休止の最中にある。周りの人々の支えや、メンバー、ファンの存在があって自身の現在がある、と境遇を重ねたのではないか。そして純粋に、草彅の逆境を跳ね返した強さに心を打たれているようにも見えた。
草彅のスピーチ後、優秀賞にノミネートされていた二宮、小栗旬(38)、佐藤浩市(60)、菅田将暉(28)と5人ではける際の笑顔溢れる和やかな雰囲気は、お茶の間の感動を呼んだ。
放送では流れなかったが、草彅が照れてか泣き笑いの表情で少しうつむいていると、二宮がそれに気づき笑いながら草彅の背中に手を添え、祝福していたと複数の観覧者からネット上に報告があがった。二宮含め、会場にいる誰もが納得の最優秀主演男優賞だったのだろう。
今回「ミッドナイトスワン」で夜の世界を生きるトランスジェンダーという難役を圧巻の演技で務め、最優秀作品賞も手繰り寄せた草彅。いまでは役に完全に入り込む憑依型の天才と各方面から認められている存在だが、人気俳優として駆け出しの頃、天才との評価を“撤回”された過去がある。
草彅は、90年代に入り人気グループとなったSMAPの一員としてドラマ出演を重ね、他のメンバーから少し遅れて97年に「いいひと。」(フジテレビ系)で役と本人の人柄が相まってブレイクを果たした。そして99年、つかこうへい氏が作・演出を務める代表作「蒲田行進曲」の主演に抜擢される。つか氏は記者会見で一度、草彅を「天才」と称したが、後日に行われた別の記者会見では「前回天才といったけれど、あの言葉は取り消す」と言い出したのだ。
かなり衝撃的な発言で、この会見の模様を取り上げた報道番組を見ながら「剛くん、何か失礼なことをしてしまったのか、やはり実力が足りなかったのか……」と心配していた筆者。ところが、つか氏が続けて力強く放った言葉は、「草彅剛は天才じゃなくて、大天才だ!」であった。しかしこの一回下げて思いっきり上げる遠回しな褒め方は相当なインパクトがあり、当時SMAPにおいて視聴率面で大ヒット作を連発していたのは木村拓哉(48)だったが、“真の実力者”は草彅なのだな、と明確に感じさせられたものだった。
「ミッドナイトスワン」の内田英治監督もかつてはアイドルそのもの、そしてアイドルをはじめスターありきの日本の映画作りを批判していた。だが今作でトランスジェンダーの凪沙になりきった草彅について、「芝居ではなく同化」「作る演技を超えている」と絶賛している(「マイナビニュース」2020年9月27日配信)。
地上波放送のある日本アカデミー賞で最優秀作品賞と最優秀主演男優賞受賞の二冠を達成した草彅。芝居の大天才がその実力でメインストリームに堂々と返り咲いた瞬間だった。