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「日本一」「差別や偏見の展示が少ない」割れる"アイヌ民族"の思い…ウポポイ開業1か月で見えてきた課題 (20/08/11 19:40)

アイヌ文化の発信拠点「ウポポイ」の開業から8月12日で1か月を迎えます。

 修学旅行の予約が殺到するなど好調な滑り出しとなった一方で、浮き彫りとなったのがアイヌ民族同士の意見の違い。施設の展示について評価が大きく分かれています。

 新型コロナウイルスの影響で開業が2度も延期に。アイヌ民族が待ちわびた瞬間は2か月半遅れで訪れました。

 開業から1か月を迎えた民族共生象徴空間「ウポポイ」。北海道内初の国立博物館、伝統舞踊などを見学できる民族共生公園、慰霊施設などが整備され、アイヌ民族の歴史を伝えます。

 現在はコロナ対策で入場できる人数を制限していますが、週末は約1500人が訪れ、修学旅行の予約数も2020年度は約700校と好調な滑り出しです。

 神戸からの来館者:「アイヌの新しい博物館ができたと聞いて楽しみにきました」

 北海道内からの来館者:「子どもたちに北海道のアイヌの文化を知ってもらいたいと思ってきた」「楽しかった」

 北海道アイヌ協会 加藤 忠 前理事長:「対話と交流を通してこの博物館とウポポイができたと信じている」

 北海道アイヌ協会の加藤忠さん。アイヌ民族最大の組織「北海道アイヌ協会」で長年理事長を務め、政府に対しアイヌの歴史や文化を伝える必要性を訴え、ウポポイの開業に尽力してきました。

 北海道アイヌ協会 加藤 忠 前理事長:「これ全部サクラだから。これ全部サクラの木だから。自然とアイヌの関係なの」

 開業を見届けた現在、後任のサポート役となり、地元・白老町で暮らしています。

 北海道アイヌ協会 加藤 忠 前理事長:「よくやってくれたなと思って。見た人聞いた人の話、非常に好評。過去とは違うんだ」

 加藤さんはアイヌの発展には「文化の浸透」が第一と考えています。

 北海道アイヌ協会 加藤 忠 前理事長:「ムックリの材料、ネマガリダケを植えれと。ウポポイのところに植えてあるの。入ってきた時からそういう(アイヌ文化の)話ができるようにしてあるの」

 施設の入り口からこだわりが。自然とともに生きてきたアイヌ文化を伝える上で、最も強い思い入れがあったのは[
慰霊施設]
でした。

 北海道アイヌ協会 加藤 忠 前理事長:「慰霊施設のところのモニュメント。27メートルの高さで、あれはパスイ(アイヌの祭具)だから。酒を供養するパスイ。神にお願いするパスイ。(先祖に)届けてやりたいって思い。盗掘されたりなんだりしてるから、そういう人にどうあるべきかっていう思いをあれに託した」

 先祖を供養する儀式などで使われる祭具、イクパスイ。人と神・カムイを結ぶ重要な役割を持ちます。

 そんな先祖を敬うアイヌ民族の墓を、かつて大学が研究のために掘り起こし、遺骨を収集しました。北海道内各地で返還を求める訴訟が起きていて、北海道大学にも116体の遺骨と、一体が特定できない遺骨53箱が今も残されたままになっています。返還された遺骨がウポポイに集約されています。

 北海道アイヌ協会 加藤 忠 前理事長:「徐々にそのことは(遺骨問題は)解決していけばいい。私はあの施設自体が日本一だと思っているから、先祖もそこで喜びをもらっていると感じている」

 一方で、白老町に遺骨を集めることに反対する人もいます。

 アイヌの参加者:「なぜ、ウポポイ(白老に)アイヌの遺骨が集約されないといけないのか。(ウポポイに)行けない」

 さらに、もう一つ。ウポポイを巡り割れる民族の思い…。

 8月、札幌市で開かれたシンポジウムで意見を交わす人たちの中に、人一倍「悔しさ」をにじませるアイヌがいました。

 清水 裕二さん:「150年いじめられてても我慢していればよかったんだ。博物館作ってやるから一緒に共生して社会を作ろうよって言われたようなもの」

 清水裕二さんです。清水さんは、博物館に差別や偏見の歴史に関する展示が少ないと語ります。

 清水 裕二さん:「自分がアイヌであることを忘れて見たら、ただばーっと見て歩くと思う。アイヌがつらい思いをしてきたことが何も知らされていない」

 両親がアイヌの清水さんは小学生の頃、同級生にアイヌであることをののしられました。

 教師になってからもアイヌであることを理由に担任を外されるなど、40年間差別や偏見にさらされてきたと言います。

 清水 裕二さん:「中学生・高校生が修学旅行で来るのは大いに結構だけど、その裏をきちんと勉強できるようにしてほしい。本来であれば博物館ってみるだけで勉強できるはずなのに勉強にならないと言わざる得ない」

 アイヌ民族が生きたあかしとなるはずだったウポポイ。その「象徴」が早くも揺らいでいます。地域ごとや考え方ごとで設立された団体は50近くに上り、どの団体も主張は様々。アイヌ民族の声を誰も代表できていないといいます。

 北大アイヌ・先住民研究センター 北原 モコットゥナシ 准教授:「家族環境によって経験が大きく違っているので、切実に求めているものにも違いがある。アイヌの全体をカバーする団体もないし、いろんな立場の声を反映する仕組みっていうのはまだ整っていない」

 ウポポイのオープンで改めて浮き彫りなった課題。ありのままのアイヌの歴史や文化をどう語り継いでいくのか…。これからも模索が続いていきます。