俳優・歌手 森崎ウィン[写真/(c)HI-AX、(c)高橋ヒロシ(秋田書店)]
10歳で来日、2018年にはスピルバーグ監督「レディ・プレイヤー1」に出演した。以来、映画やドラマへの出演が続く。ミャンマー出身の俳優、森崎ウィンが目指すのは、ボーダーレスなエンターテイナーだ。AERA 2020年12月21日号から。
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今年、カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション2020に選出された「本気のしるし 劇場版」で主演を務め、郊外の文具メーカーに勤める営業マンを演じた。偶然出会った女性に翻弄(ほんろう)され、闇に引きずり込まれていく役柄は、自身の新境地を切り開いたように見えた。
森崎ウィン(以下、森崎):なかなか明るいニュースのない現在のような状況下で、カンヌに認められたのは純粋にすごくうれしいことでした。全国の映画館で上映されるような大きな規模の作品ではないのですが、僕は逆にそれがいいなって、思っていて。深田晃司監督とご一緒できたことも、大きな経験になりました。
■現場経験が力になる
役に対しては、毎回ゼロから向き合うようにしています。今回は原作の漫画がある作品だったのですが、あえて読まないようにしていました。自分が準備すべきことを準備して現場に入り、監督の演出を受け、その場の空気を感じながら演じるのが、とてもリアルだな、と感じています。
特に心情の面では、その瞬間瞬間の森崎ウィンにつながる部分があったのでは、と思います。毎日の現場での経験が自分のなかの引き出しに少しずつ入っていって、自分の“素材”になり、力になっているという感覚がありました。それは、どの作品についても言えることです。
放送中の連続ドラマ「6from HiGH & LOW THE WORST」では“謎の男”を演じ、アクションにも挑戦。演じることの楽しさを噛み締めている。
森崎:なかなか破天荒な撮り方をしていて、「しんどいな」と思うこともありますが(笑)、撮影用クレーンが動き、カメラが顔の近くまで下りてくると、「やっぱり楽しいな」という気持ちになるんです。せりふはなく表情だけですべてを語るシーンも多く、その瞬間はもちろん役に入り込んでいるのですが、同時にどこかで面白がっている自分もいました。役者という仕事をしている以上、「俺を見ろ」という気持ちがどこかにあって、そんな自分がカメラの小さな画面のなかに映り込んでいる。そう考えると楽しいな、面白いなって。
「6from HiGH & LOW THE WORST」の脚本は、自由度が高く、いい意味で余白だらけなので、その余白を自分でどう埋めるかを考えるのが面白かったです。「役者自身を持ち込んでください」って言われているような気がして、「ここはこうしたい」と自ら提示していけることにも、やりがいを感じました。
ミャンマーに生まれ、10歳で来日した。「レディ・プレイヤー1」(18年)や「蜜蜂と遠雷」(19年)での流暢(りゅうちょう)な英語は、幼い頃にミャンマーでともに暮らした祖母からの影響が大きいという。
■ミャンマーを知って
森崎:若い頃にアメリカに住んでいた祖母が僕に英語を教えてくれていたんです。祖母は洋楽が好きだったこともあり、僕も幼い頃からマイケル・ジャクソンやマドンナの曲を聴いて育ちました。とはいえ、必ずしも欧米に対して強い憧れを抱いていたわけではないんですけれどね。
来日してからは、大変だったこともあったのかもしれませんが、どれも乗り越えてしまったので。「あのときは大変だったな」と多少振り返ることはあっても、もう忘れてしまったな、と思うこともあります。
今秋、放映されたNHKドラマ「彼女が成仏できない理由」では、漫画家を目指してミャンマーからやってきた留学生を演じた。
森崎:日本の作品で、ミャンマーからの留学生を演じられるのは純粋にうれしいことでした。自分の目標の一つである、「エンターテインメントを通じて自分の国を知ってもらう」ということに近づけた一歩だったと思います。「エンタメを通じて自分の国を知ってもらう」って言葉にすると、格好つけているように聞こえるかもしれませんが、欧米や韓国の役者のなかには、日本で広く知られている人もいるのに、ミャンマーの役者はほとんど知られていない。だったら、自分がミャンマー代表を目指せばいいし、そうなりたいな、という気持ちがあります。
ミャンマーでも現地の連続ドラマや映画に出演しましたが、改めて感じたのは、エンタメって本当にボーダーレスなものなんだ、ということ。どのようにして作品をつくるかは違っても、作品にかける熱量みたいなものは、どこの国であっても変わらないと実感しました。
役者と並行して、音楽活動も行っている。これからの活動をどう思い描いているのか。
■好きなことは極めたい
森崎:僕は目標を明確にしないと動けないタイプなので、音楽人としてはアジアツアーを一つの目標にしています。いつか自分の作品とともに、ルーツであるアジアをまわりたい。ちゃんと現地に行って、歌いたいと思っています。
俳優としても、アジアの作品に積極的に出演していきたいという気持ちがあって、アジアを代表するエンターテイナーの一人になりたい。いま、中国映画も韓国映画も、すごく勢いがありますよね。“アジアの底力”みたいなものを感じるので、底上げしてくれている人たちのなかに自分も入っていけたら。
森崎ウィンとして、もう一段階、ステップアップしたいと考えている。そのためにどうすればいいか、必要なことを模索する日々が続いている。
森崎:YouTubeチャンネルを開いたり幅広く活動しているので、「この人は何をしたいのだろう」と思われることもあるのかもしれません。でも、人生一度きりだし、そのときにしたいことをする、という気持ちがあります。
どこかぎこちないところにいる自分から抜け出すためのスイッチを探したくて、いまは「勉強する時間を持とう」と思っています。知識を得よう、なるべく人に会おう、と。芸術の分野に限らず、興味を持ったものを徹底的に調べてみる。ワインが好きなので、ワインの勉強を始めようかな、とも思っています。昔から旅客機が好きでたまらなかったり、少しオタク気質なところもあって好きなことは極めたくなってしまうんです。多くの人々に出会って、話を聞き視野を広げていけば、きっといつか何かにつながっていくと信じています。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2020年12月21日号