未だに分かっていないことが多く、治療法も確立していない“コロナ後遺症”。脱毛や嗅覚障害だけでなく、中には記憶障害が続いているケースも。ウイルスが脳に深刻な影響を与えている可能性が見えてきました。

「運動したあとからだるくなる?」(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「次の日に全然起きられなかったり、ベッドに沈み込むようなイメージ」(25歳の女性)

去年11月、新型コロナの「陽性」と判明した25歳の女性。当時、のどの痛みや発熱がありましたが、「軽症」で、1週間ほどホテルで療養しました。しかしその後、脱毛やひどい倦怠感といった症状が続いています。さらに、ひどくなったのが“物忘れ”です。

「自分の携帯番号、思い出せなかった?」(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)
「忘れたことないのに、あれ何だっけってなったり、とにかく頭が回らない感じがして、他人に言われたこと何言われたっけって考えても、なかなか思い出せなかったりとか」(25歳の女性)

これまでに経験のない、記憶力や思考力の著しい低下。女性は日常生活に支障をきたし、未だに職場にも復帰できていません。“コロナ後遺症”に苦しむ多くの患者を診療してきたこちらのクリニック。患者1098人の症状を分析したところ、「倦怠感」や「気分の落ち込み」に次いで「思考力の低下」を訴える人が82%にのぼっています。

「職場の人から怠けていると思われたり、うつ病だからとか、精神科に行ったら治るはずと言われたり、そういうことはよくあります。(コロナで)軽症だった人、感染して治ったはずの段階なのにだるい、多分、後遺症なので一旦運動しないで詳しい先生にかかってほしいと思います」(ヒラハタクリニック 平畑光一院長)

神奈川県内に住む48歳の女性も、1年ほど前から記憶力が著しく低下したと感じています。

「Tシャツが1枚あって『これ誰のだろう?』と思って、そうしたら下の子が『これママのTシャツだけど』って。『ママ昨日着てたよ』って言われて、でも自分のだっていう記憶がなくて」(48歳の女性)

実は、去年3月に発熱や咳など、コロナとみられる症状が出ましたが、当時、PCR検査を受けられませんでした。発症から2か月後にようやく検査ができましたが、結果は「陰性」でした。

「大丈夫?」(女性の娘)

ところがこの1年間、記憶障害に加え、ひどい倦怠感や全身の痛みなどが続いています。立ったままでいることが難しく、食事の支度も座って行っています。1日の大半を横になって過ごしていて、外出も最低限しかできなくなってしまいました。発症から2か月後に受けたPCR検査は陰性でしたが、女性を診断した脳神経内科の山村医師は、女性の症状は“コロナの後遺症”であるとみています。診断のポイントとなったのは「脳の異変」です。

「集中力がない記憶力がない認識力がない、場合によっては一時的に頭の中がもやがかかった状態になってしまう。『ブレインフォグ(脳の霧)』とも言いますけど、そういう状態になっていると思った」(国立精神・神経医療研究センター 山村隆特任研究部長)

これは女性の脳の血流を示した画像です。青い部分は正常な状態と比べ、血流が低下していることを示しています。このうち最も大きいのが、運動や認知・学習に関わる部分でこれが様々な異常を引き起こしているとみられています。新型コロナの流行が始まって以降、こうした脳の異変が見つかる患者が相次いでいるといいます。

「同じようなパターンで発症している人が私の方に20人ぐらい来てまして、彼女は新型コロナの感染に関係した『筋痛性脳脊髄炎=ME』だろう」(国立精神・神経医療研究センター 山村隆特任研究部長)

「ME=筋痛性脳脊髄炎」。日本では、「慢性疲労症候群」とも呼ばれ、重症化すれば寝たきりの状態となる神経難病です。ウイルスなど感染症をきっかけに発症すると言われています。山村医師が考える発症の仕組みはこうです。新型コロナウイルスは肺などの呼吸器だけでなく、脳の免疫にも異常を及ぼします。その結果、脳に炎症が発生。この炎症が、倦怠感や記憶障害など様々な症状を引き起こしているというのです。

「単なる気のせい、心の病だから別の病院に行けなんてことをやると治療がすごく遅れてしまう。早い段階でこういう病気だと診断してあげて、それなりにいろんな対応をしていくと、回復するケースが増えてくると思います」(国立精神・神経医療研究センター 山村隆特任研究部長)

家族の助けを得て、何とか生活している48歳の女性。「感染拡大初期に、発症しても検査が受けられなかった人たちがいる」、「PCR検査で『陰性』だったとしても、“コロナの後遺症”が起こりうることを知って欲しい」と話します。

「家族の理解ってすごく大事だと思う。見た目に分からないじゃないですか。普通に座っていたら『元気そうじゃん』ってなると思うが、実際体調にむらがあったりひどい時は起きられないことがあるので、後遺症にかかって苦しんでいる人たちのことを皆さんに分かってほしい」(48歳の女性)

(news23 2021年2月22日放送)

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