いわゆる“宗教2世”の問題をめぐり、厚労省は去年12月、「輸血などの医療行為を受けさせない」ことはネグレクトにあたるとガイドラインで明示しました。にもかかわらず、キリスト教系団体の「エホバの証人」では、子どもへの輸血を拒否するよう指示を続けていることが分かりました。

「エホバの証人」の問題を追及する支援弁護団の一人、田中広太郎弁護士。

エホバの証人問題対策弁護団 田中広太郎弁護士:
「輸血拒否、あとは忌避(きひ)と呼ばれる破門処分になった時にどういった問題が生じるかということに関して、(信者から)生の詳細な体験談がたくさん寄せられている」

その一人、幼い子どもを持つ男性信者です。子どもが産まれたあと、教団の幹部からある指示を受けたと話します。

エホバの証人 現役信者:
「親は『子どもに輸血させることを拒否させなさい』というのが文書で示されたんですよね」

幼い我が子が、事故や手術で大量出血した場合でも、「輸血を拒否」するよう求められたというのです。

「エホバの証人」は、100年あまり前にアメリカで設立されたキリスト教系の宗教団体で、日本にはおよそ21万人の信者がいるといいます。「血を食べてはならない」などの聖書の言葉に従い、輸血は受け入れないとしています。

日本でその名が知られたのは、1985年の事故がきっかけです。川崎市で小学生の男の子(当時10)がダンプカーにはねられ重傷を負います。病院に搬送されましたが、親が信仰を理由に輸血を拒否。男の子は、死亡しました。その後も、「輸血拒否」を巡って信者と病院が裁判で争うなどしてきました。

エホバの証人 現役信者:
「大人というのは宗教的な理由を理解して決定する能力があると思うので、信教の自由があるので自由だと思うが、子どもというのは、そもそもそういうことを認識する能力が、特に未就学児とかはないわけですよね。そういう子どもに強制的に親が輸血を拒否させるということは、それは子どもの人権を侵害していることになりますし、親の責任で輸血を拒否させると言われたときに、それはちょっと違うんじゃないかなと感じましたね。子どもの笑顔に何回も救われたんですよね。本当にその状況になれば輸血させると思う」

厚生労働省は昨年末、宗教的な虐待に関するガイドラインを初めて示しました。そのなかで、18歳未満の子どもについて、医師が必要と判断したにもかかわらず輸血などを受けさせないことを「ネグレクト」にあたると明記したのです。

信者が指示されたと訴える「子どもへの輸血拒否」。教団内の実態はどうなのか…。現役の幹部が取材に応じました。

エホバの証人 現役幹部:
「これがいわゆる長老(幹部)たちがアクセスする教団側のプラットフォームになります」

幹部しか入ることができないというサイト。そこには…

エホバの証人 現役幹部:
「ログインすることで教団からの指示が書かれたページにアクセスすることができます」

「S55」と呼ばれる内部文書。タイトルには、「子供を血の誤用から守る」と記されています。

【内部文書】
「子どものために輸血を拒否しなければなりません」
「親は決して確信を弱めてはなりません」

信者の証言とも一致する言葉が並びます。さらに、病院などが輸血を求め、裁判所が法的な手続きを行った際の対応についても記載されています。

エホバの証人 現役幹部:
「元々は英語でアメリカの本部が出したものを、日本支部が受け取って、末端の各会衆(地区)に送られてきて指示が徹底される。輸血を受け入れたがために破門になるとか、もしくは何らかの処罰を受けるということは、実際に知人の間でも目撃したことがあります。(破門されると)たとえ家族であったとしても、一切のこういう話をすることも禁じられる」

この幹部は、厚労省がガイドラインを公表したあとも教団の指示は続いていると明かしました。

エホバの証人 現役幹部:
「比較的最近、今年に入ってから(幹部に対して)最新の改訂部分に関する説明がなされたので、まさに最新のものとして取り扱っているという理解で間違いありません」

今回、証言した理由については…

エホバの証人 現役幹部
「組織の教理の矛盾であるとか倫理感からの逸脱ということに関して、少しおかしいなという疑念を持つようになったのは、かなり前になるんです。その疑念が確信に変わって、その教えは間違っているというふうに考えています」

「輸血拒否の指示」や「厚労省のガイドライン」について教団の日本支部は…

【エホバの証人 日本支部】
「わたしたちの組織の特定の人が、輸血を拒否するようだれかに強制することはありません。エホバの証人は、輸血やその他の治療法を受け入れるかどうかは、各人の個人的な決定であると考えており、強制されたり、圧力を受けたりして決めることではないと教えています。親が聖書の原則に基づいて愛情を持って子どもを教え導くことを勧めており、それは日本の最新の児童虐待防止に関する法律の考え方とも一致しています」(文書で回答)

宗教社会学に詳しい専門家は、子どもについては、将来を考え「最善の治療」を受けさせるべきと指摘します。

北海道大学大学院 桜井義秀教授:
「子どもを保護しているのは親だけじゃないです。社会全体で保護しているわけですから。輸血拒否などを含む自分の命に関わるような重要な選択というのは社会標準のやり方が適用されるべき」

支援弁護団の田中弁護士も、母親が「エホバの証人」の熱心な信者で、自身も2世として育ちました。

エホバの証人問題対策弁護団 田中広太郎弁護士:
「母が突然の大量出血で倒れまして、(医者は)輸血をしないのであればこのまま死を待つだけで、しかもかなり早い段階で亡くなるだろうと。母は『死んでも輸血を拒否します』と言っていました」

教団はこうした際、輸血なしでの手術を断らない病院などを示しますが、実際に受け入れが決まるまでは、長い時間がかかったといいます。母親は一命をとりとめましたが、苦悩した経験から実態を明らかにし、「1人でも多くの命が救われれば」と話します。

エホバの証人問題対策弁護団 田中広太郎弁護士:
「誰であれ宗教のせいで不必要な苦しみを経験する人が少しでも居なくなってほしい」

サタデーステーション 2月25日OA
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