満開の桜が空を覆うように咲き誇るかむろ坂。
この景観は品川百景にも選ばれる桜の名所です。
この桜並木を愛する地元の人たちが毎年行っているさくらまつり。そして、まつりの会場のひとつになっているのが、かむろ坂に面している第四日野小学校。
子どもたちが桜に寄せる想いも特別です。

「かむろ坂の桜を見て『きれいだな』『これから頑張ろう』と思い、桜に応えるようにしっかりしようと思った」
大切な桜並木を守るために、平成29年12月から倒木の危険がある一部の古い木を伐採し、リニューアルが行われました。

平成30年2月に行われた植樹式。
第四日野小学校の6年生も参加しかむろ坂にしっかり根付くようにと植樹が行われました。
「植樹された桜が第四日野小学校を見守り大切にされ育ってほしいと思う」

かむろ坂の新たなシンボルに育つようにとの願いを込めて植えられた桜の木。第四日野小学校と桜の新たな物語が紡がれていきます。

『かむろ坂桜物語〜第四日野小学校が育んできた想い〜』

かむろ坂の中程にある公園に、坂の名前の由来となったかむろの銅像があります。かむろとは遊女を世話する少女のこと。そのかむろが、悪人に追われこの地にあった池に身を投げたことから、いつとはなしに通りの名として呼ばれるようになったといわれています。
この逸話は「しながわの昔ばなし」のひとつで、これをヒントにした区民ミュージカル「しながわ物語」の一場面にもなっています。

昭和29年第四日野小学校に入学した後藤さんに当時のかむろ坂の様子を伺いました。
「遠い昔でよく覚えていないが、(かむろ坂に)木が植えられていたという記憶があまりない」
ではかむろ坂に桜並木ができたのは、いつ頃のことだったのでしょうか。

昭和31年かむろ坂に歩道ができ、緑化運動の一環としてまた住民からの願いもあり150本の桜の若木が植樹されたのがその第一歩です。
やがてこの桜は公害で一部が枯れたため、昭和44年頃から柳が替わりに植樹され、街路樹は桜と柳の二本立てに変化していきます。
そして平成に入る頃、街路樹に新たな動きが起こりました。
「柳は虫がつきやすく倒木しやすい。また柳と桜がひとつの通りに2種類あるのはよくない。ひとつにしようと桜の木に統一した。今では桜のトンネルというイメージが区民に定着したので良かったと思う」
桜並木はにぎわいのシンボルとして地域を盛り上げ、多くの人に親しまれていきました。

しかし倒木の危険が出てきたため、平成29年12月から19本を伐採し桜を植え替える作業が行われました。
伐採された桜の木は、品川区がデザイン・制作したキーホルダーと定規に姿を変え、第四日野小学校の全児童への贈り物になりました。

一方小学校でもこの機会を捉えて、身近な桜をテーマにした新たな活動を生み出していきました。
そのひとつが伐採した桜の木を利用した記念の看板作りです。6年生が考えたデザインを基に全児童が参加して作った看板は、プールのフェンスなどに展示されました。
「桜を伐採するという話を聞いて考えた。かむろ坂を毎日通って見ている桜なので、思い出を込めて制作できたことが良かった」
さらに伐採した木を活用した体験授業は続けられます。

「全校児童にアンケートをとり、その中で可能な活動が染色でした」
5年6年生は、絞り染めの体験授業を2日間にわたって行いました。
絞り染めは、糸を使い布の一部を縛るなどの方法で圧力をかけ、染料が染みこまないようにすることで模様を作り出す染色技法のひとつです。
先ず細かくした桜の枝を40分ほど煮て、染める液を作ります。
今回はゴムで布を縛ったり、割り箸の止める位置や角度を工夫して、思い思いのデザインを作っていきます。布は染料に入れ30分煮てから、一晩浸け込みます。
翌日は、ミョウバンを使い模様を定着させる作業です。お湯にミョウバンを溶かし10分くらい浸けます。最後に水洗いすれば、伐採した木を活用した絞り染めの完成です。
「長く育った木を使えたのはうれしい」
「ふだん経験できないことなので、身近に桜を感じてもらえる授業の取組みは良い」

ウェルカムボードを制作した平成29年度の卒業生3人が、この日学校に顔を揃えています。
「卒業してもいつまでも学校に、自分たちの気持が残ってほしいという想いで作った」
「今も持っています」
今も大切に使っているというこの贈り物。
「短いが温かみがあり、使いやすい」
卒業しても変わらず、桜に寄せる想いには特別なものがあります。
「ずっと見守ってきてくれた木だから、私も桜に応えるようにしっかりしていきたい」
平成30年新年度に入っても第四日野小学校では、伐採した桜の木を活用した新たな授業の取組みが続けられています。4年生は使い方を習ったばかりの彫刻刀で、コースター作りです。
どんなコースターに仕上がったのでしょうか?
「夏休みに星を見てきれいだと思ったので星の形にした」
「この学校といえば桜だと思ったので桜をデザインした」
「かむろ坂に抱かれた第四日野小学校だから、子どもたちにも末永く大切にしてほしいと思う」

第四日野小学校の校庭には5本の桜の木があり、毎年満開の花が新学期の訪れを告げています。この桜はいつ頃植えられたのでしょうか?
「昭和29年に入学した時に(クラスが)5組あった。記念にプールの前に植えた」
小学校から2年遅れて、昭和31年に植樹されたかむろ坂の桜。
地元でずっと見守り続けてきた後藤さんの想いはどんなでしょうか。
「桜が咲いた時も良いですけど、満開になって散る時も花吹雪になって感動的です。店の中に入ってきて掃除するのが大変だが嫌ではない。桜の頃この街がにぎわって、地元に育った人間としてはとてもうれしいです」
地元の人たち、そして第四日野小学校に見守られ育まれてきたかむろ坂の桜並木。植え替えられた木には、さらに末永く愛され桜の名所として育っていってほしいとの願いが込められています。